クマバチ(キムネクマバチなど)は見た目に反して高い飛行能力を持ちます。しかし一時期、「クマバチの体型では航空力学的に飛べないはずなのに、本人(蜂)はそれを知らないから飛べている」といったユーモラスな俗説が広まりました。これは「クマバチは本当は飛べないが、飛べると信じているから飛べる」とも表現され、根性論や精神論の例え話として引用されたり、都市伝説として扱われたりしています。
1. 起源:1930年代の科学的疑問からジョークへ
この説の発端は20世紀初頭、航空力学がまだ発展途上だった頃にさかのぼります。当時の知見でクマバチなど昆虫の飛行原理を単純計算すると、「重い体に対して羽が小さすぎて理論上は飛行不可能」という結論が出てしまいました。
1934年、フランスの昆虫学者アントワーヌ・マニャンが著書『昆虫の飛行』の序文で、「航空機理論に沿えば昆虫の飛行は不可能だ」という趣旨を記しています。 (参考:Antoine Magnan “Le Vol des Insectes” 1934)
これは当時の航空力学が、昆虫の羽ばたき(非定常空力)の特性を考慮できていなかったためであり、科学の未熟さによるものでした。実際にはクマバチが飛べることは明らかなので、科学者たちの間でも「理論がおかしい」とジョーク交じりで語られるようになりました。

2. 広まり方:「知らないから飛べる」という精神論・根性論の象徴へ
- 20世紀中頃には「クマバチは理論的には飛べないが、本人はそれを知らないので飛べている」という話が欧米で広まりました。
- 米国では出版関係者や自己啓発作家などが「クマバチの話」を座右の銘や標語として引用。
(例:「航空力学によればハチは飛べない。しかしハチはそれを知らないから飛ぶし、毎日せっせとハチミツを作る」) - 「知らなければ限界を作らず何だってできる」という寓意として、根性論や自己啓発の場面で好まれました。
- この過程で、科学的な事実からは離れて「精神論・根性論の象徴」という都市伝説化が進みました。
3. 日本での拡散:広告やドラマ、ネットミームとして定着
- 1970年代以降、日本でも「クマバチは根性で飛んでいる」等の与太話が流布。
- 2008年、ファッションブランド「23区」(オンワード樫山)の広告ポスターでこの話がキャッチコピーに採用。
「学術上、クマンバチは飛べない。それを知らないから飛べるんだって。」 - 2009年「24時間テレビ」内のドラマで「クマバチは気合で飛んでいる」というセリフが登場し、困難克服の象徴として引用。
- SNSやブログ、自己啓発などでもこの話題が頻繁に引用され、「飛べないことを知らないから飛べる」が人々の記憶に残るフレーズとなりました。
4. ファクトチェック:クマバチは気合や精神論で飛んでいるのか?
結論:クマバチは物理法則に反して飛んでいるわけではありません。
その飛行メカニズムは近年すでに解明されています。
- クマバチなどの昆虫は、空気の粘性と羽ばたき運動による「前縁渦(リーディングエッジ・ボルテックス)」を利用し、実際に十分な揚力を生み出せます。つまり非定常空力(時間的に変化する空気力学)の効果を考慮すれば、クマバチが飛べることは理論上もちゃんと説明できるとのこと。
- 1980年代以降の研究により、「クマバチは航空力学的に飛べない」という命題そのものが誤りと証明されています。レイノルズ数(慣性力と粘性力の比)などを考慮した新たな計算でクマバチの飛行原理が解明されたようです。
- ファクトチェックサイトSnopesや、ウィキペディア、科学解説サイトなどでも「クマバチが飛べないのは都市伝説」とされています。
要するに、「クマバチは飛べない」説は元々科学上のジョークであり、やがて「信念の象徴」として美談化されていったもの。
実際には、クマバチは自らの力で当たり前に空を飛んでいます。ぶーーーーんって。
5. まとめ:都市伝説の“教訓”は今も残る
この俗説の発端は科学者の間のジョークであり、それが寓話的なメッセージとして世界中に広まりました。誤解や誇張もありましたが、人々を勇気づけるポジティブな教訓として使われてきたのも事実です。
現在では正しい科学的知識も広まりましたが、「限界を設けず信じることの大切さ」というクマバチ俗説の教訓自体は、今も多くの人の心に残っています。

参考・出典
- アントワーヌ・マニャン『昆虫の飛行』1934年
- Snopes: Bumblebees Can’t Fly
- IFLScience: The Strange Myth That Bees Shouldn’t Be Able To Fly
- Wikipedia(日本語):クマバチ
- その他 各種科学解説サイト、ブログ等
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